「覚えたはずなのに、しばらく経つと抜けている」。勉強をしていれば、たいてい通る道です。

そこで出てくるのが 忘却曲線 です。19世紀の終わりに、覚えたことが時間とともにどうなるかを自分自身を相手に実験した人がいて、その結果を1本の線にしたものです。時間が経つほど右下がりに落ちていくグラフで、見たことがある人も多いと思います。よく見かける「20分後に42%忘れる」という数字も、ここから来ています。

ただ、この数字は、どれだけ忘れたかを測ったものではありません。測られたのは、覚え直すときに手間がどれだけ減るか、でした。つまり、忘れたように見えても記憶が丸ごと消えたとは限りません。

しかも、この右下がりの1本の線は、項目ひとつひとつの忘れ方を平均してならしたもの です。平均としては正しくても、あなたの目の前の1問については何も言っていません。この記事では、自分の忘れ方とどう付き合えばいいかまで見ていきます。

忘却曲線が測っていたのは「忘れた割合」ではない

まず、あの曲線が何の実験から生まれたのかを見ていきます。

1880年、ドイツの心理学者エビングハウスが、自分自身を被験者にして記憶の実験を行いました(結果が本にまとまったのは1885年です)。ここまでは、よく紹介されているとおりです。

見落とされやすいのは、測り方のほうです。エビングハウスは「どれくらい思い出せますか」と自分に聞いたのではありません。覚え直すのに、どれだけ手間が減ったかを測りました。

たとえば10回読んでやっと覚えたものが、翌日は6回で覚え直せたとします。このとき浮いた4回ぶんが「節約」にあたります。これを割合にしたものが 節約率 です(実際の計算は回数ではなく、かかった時間で行われています)。

エビングハウスが残した値から、代表的なところを抜き出すと次のようになります。

覚えてからの時間節約率
19分後58%
1日後33%
6日後25%
31日後21%

(出典: Murre & Dros 2015 に再掲されたエビングハウスの原データ。時間が半端なのは、実験の都合でこの間隔になったためです)

よく見かける「20分後に42%忘れる」は、この表の一番上、19分後の58%を裏返した数字です。もとの58%は「20分後でも、覚え直しは58%ぶん楽だった」という意味なので、裏返した瞬間に意味が変わってしまいます

だから「忘れた」は、ゼロに戻ることではない

ここが、この曲線のいちばん実用的なところだと考えています。

節約率が残っているということは、前に覚えた痕跡が残っているということです。もし完全に消えているなら、覚え直しは1回目とまったく同じ手間がかかるはずです。少なくともこの実験では、そうなりませんでした。

久しぶりに開いたサイトのパスワードを思い浮かべてください。自分では思い出せないのに、候補が表示された瞬間に「あ、これだ」と分かることがあります。思い出せないことと、消えていることは、別ものです。

論文もこの点に触れていて、思い出すことも「見覚えがある」と気づくこともできないのに、覚え直しだけは速くなる、という状態がありうると書いています(出典: Murre & Dros 2015)。本人には残っている自覚すらない、というところが厄介で、同時に救いでもあります。

私も同じ感覚を、単語帳のカードを解いているときに何度も味わいました。しばらく間があいたカードは、その場では答えられません。ところが解答を確認したとたん、しまい込んでいた記憶がぐっと引き出されて、そこで記憶の定着が一段強くなった感じがしました。ゼロから覚え直している手応えではありませんでした。

だから、復習は「イチからやり直し」ではなく「上乗せ」に近いものです。完璧に思い出せなくても、もう一度その問題に取り組んでいい。そう考えると気が楽になります。

あの数字が自分に当てはまらない理由

では、表の数字を自分の勉強にそのまま当てはめてよいかというと、そうはなりません。理由が3つあります。

1つ目は、覚えた材料です。エビングハウスが使ったのは 無意味綴り(「ダフ」「ウィブ」のように、意味のつながりをわざと持たせないようにした文字の並び)でした。意味のある内容を、理解したうえで覚えた場合の落ち方とは、条件がまるで違います。

2つ目は、人数です。この実験の被験者は、エビングハウス本人ただ1人でした。1人ぶんのデータだけでは、その形が誰にでも当てはまるのかは分かりません。

3つ目は、測り方そのものです。実は節約率という測り方は、その後「ほかの測り方に比べて当てにならない」と評価されて、あまり使われなくなりました。覚えやすい材料ほど、残っている記憶を実際より多く見せてしまうという弱点があるためです(出典: Murre & Dros 2015)。さきほど「記憶は丸ごと消えたわけではない」と書きましたが、その根拠もこの測り方の上に乗っている、というところは正直に書いておきます。

私自身の実感でも、落ち方は内容によってかなり変わりました。しっかり理解したうえで覚えた知識ほど、長く安定して残ります。逆に、根っこの部分を分かっていない知識は、何度触れても定着しません。参考書を読み込んで、自分の言葉で説明できるところまで持っていくと、記憶のもちが変わってくる感じです。

理解を深める作業そのものは、以前よりずっと軽くなりました。私が学生の頃は、分からないところは授業で先生に聞くか、参考書を読み込むくらいしか手がありませんでした。いまは分からない箇所をAI(チャットで質問できるタイプのもの。無料で使えるものもあります)に聞けば、かみ砕いた説明が返ってきます。

特によく効くのが、過去問や演習問題の解説です。難しい問題ほど解説があっさりしていて困りますが、いまはそこをAIに補ってもらえます。やりとりは残せるので、後から見返すこともできます。

ここで気をつけたいのは、「だから忘却曲線は嘘だ」と切り捨てないことです。当てにできないのは数字のほうであって、放っておけば忘れるというところは、その後もくり返し確かめられています。忘却曲線という古き概念から捨てるのは、目盛りだけで十分です。

曲線は1本ではなく、覚えたことの数だけある

さきほど「被験者が1人だと、誰にでも当てはまるかは分からない」と書きました。では、ほかの人で測るとバラバラだったのかというと、そうではありませんでした。

さきほどの論文の著者は、自分自身を被験者にして同じ実験をやり直し、過去に行われた2件の追試とあわせて、4人分の曲線を並べています。結果は「驚くほどよく似ていた」というものでした。1日後の節約率でいうと、4人が33%・32%・27%・32%です。100年以上の時間差があり、実験を行った言語も違うのに、形がそろっています(出典: Murre & Dros 2015)。

つまり「人によって忘れ方が全然違うから、曲線なんて当てにならない」という言い方は、少なくともこの実験の範囲では当たっていません。人と人の差は、言われているほど大きくないようです

では、あの1本のグラフは何を隠しているのか。同じ人の中での、覚えた項目ごとの差です。

論文は、この点をはっきり書いています。エビングハウスの忘却曲線は、覚えやすさの違う項目それぞれの忘れ方を平均してならしたものだ、と。そのうえで、あの特徴的なカーブの形自体が、平均したせいでできている可能性があると続けています(出典: Murre & Dros 2015)。

冷蔵庫を思い浮かべてください。中身にはそれぞれ賞味期限がありますが、全部が同じ日ではありません。牛乳とレトルト食品を同じ日に捨てる人はいないはずです。知識も同じで、こないだ覚えた公式と、3年前から使っている用語では、もちが違います。

平均を出すこと自体は間違いではありません。ただ、冷蔵庫の中身の期限を平均しても、今夜どれを食べるべきかは分かりません

このことが分かっていないと何が起きるか、私の失敗をそのまま書きます。

その前に、暗記アプリの仕組みを一言だけ。この種のアプリでは、1問答えるたびに「覚えていた」「あやしい」「忘れていた」のどれかを自分で押します。押したボタンに応じて、そのカードが次に出てくる日をアプリ側が決めます。あやしい寄りを押すほど、早く出てくるようになります。

Anki(定番の暗記アプリ)を使っていた頃、私は問題そのものは解けるのに、解説欄(カードの裏に自分で書き足しておいた補足のことです)の内容までは覚えられていないカードを、たくさん抱えていました。

そこで何をしたかというと、その補足をもう一度読むためだけに、「Hard」(あやしい寄りを意味するボタン)を押していました。そうすれば、そのカードが早く出てくるからです。

これは完全に間違った使い方でした。押した対象は「問題」なのに、私が復習したかったのは「裏に書いた別の知識」です。1枚のカードに2つの知識が同居していたので、どちらの賞味期限に合わせればいいか決まらなかったわけです。

打った手はひとつで、裏に書いた知識を、別の1枚として切り出しました。結果は2つに分かれました。

  • 元のカードは、出てくる回数が減りました。もう覚えているものを何度も繰り返す時間が、そのまま浮きました。
  • 切り出したほうは、体感としてはっきり早く覚えられました。それまで補足を眺めるだけだったものが、問いの形になったことで「思い出す」練習に変わったからだと考えています。

読み返すよりも、問題を解いて思い出すほうが記憶に残りやすい、という報告もあります(出典: Dunlosky ら 2013)。眺めていた知識を問いの形に変えたことが、そのまま効いたのだと思います。

つまり、1枚に複数の知識を詰め込むと、複数の賞味期限が混ざります。いちばん傷みやすい1つに引きずられて、全部が何度も出てくることになります。1枚に1つだけ入れておけば、それぞれが自分のペースで出てくるようになります。

切り出したい知識が増えてくると、今度はカードを作る手間が問題になります。教材から問いの形を作らせる方法は、暗記カードをAIで自動生成する方法にまとめました。

なお、カードを作る作業そのものをまるごと自動化する話も書いています(Claude Codeで単語帳を自律生成する方法)。ただしこちらはコードを扱うので、エンジニア向けの内容です。

「忘れかけ」で戻ると、どんな感じがするか

「忘れる前に復習しましょう」という言葉は、あちこちで見かけます。ただ、それが実際どんな手触りなのかは、あまり書かれていません。私の体感を書いておきます。

ちょうど忘れかけている頃に出てきた問題は、こんな感じでした。

  • 完全な初見ではないので、周辺の情報のほうは、すぐに思い出せます。それをたどっていくと答えにも届くことが多いです。
  • 「あ、これ見たことある」から始まって、少し考えていると出てきます。
  • 少し集中すれば思い出せる問題ばかりなので、テンポよく進みます。私の場合は、解いていて気持ちいい、という感覚に近かったです。

一方で、さきほど書いた「Hard」を押して、次に出てくるまでの間隔を自分で縮めていた頃は、まるで違いました。

  • もう答えを知っているので、問題を解く手応えがありません
  • 裏の補足を覚えようとするのですが、そちらは問いの形になっていないので、自分の記憶が定着したのかどうかも分かりません
  • ゴールの見えない場所で手探りしている感じで、正直、不快感すらありました。

この2つを並べてみると、間隔をあける理由がはっきりします。間隔をあけるのは、手を抜くためではありません。「思い出す」という作業が成立する状態を作るためです。答えを知っている状態で出しても、思い出す練習にはなりません。

なお、少し忘れかけたくらいが効きやすいと考えられていますが、「どれくらいあけるのが最適か」はまだ決着がついていません。間隔と効果の関係は単純な右肩上がりではない、という報告もあります(出典: Cepeda ら 2006)。ですので私は、細かい最適値を追いかけるより、あけすぎず、早すぎずの範囲に収めることのほうを大事にしています。

具体的に何日あけて何回取り組むか、という話は間違えた問題はいつ解き直す? 回数と順番にまとめました。逆に、早く出し直しすぎて復習が積み上がり、手が止まってしまうパターンについては、Ankiに挫折する理由と続けるコツで書いています。

平均は、あなたの1問について何も言っていない

ここまでをまとめると、平均の曲線そのものは信用してよいけれど、それはあなたの目の前の1問については何も語っていない、という話になります。では何を見るかというと、自分の記録です。

正直に書くと、私は忘却曲線という言葉自体は、なんとなく前から知っていました。ただ、それを勉強に取り入れたのは Anki を使い始めてからです。その時に忘却曲線の概念、考え方についても一通り学びましたが、何日に何%覚えているかの数字を理解しても、ほとんど何の役にも立ちませんでした。むしろ効いたのは、忘れたかどうかを自分の感覚で判断するのをやめて、道具に任せたことのほうでした。

やり方は2つに分かれます。

1つ目は、自分で記録する方法です。 解いた日と、正解したかどうかを残していきます。道具は表計算ソフト(ExcelやGoogleスプレッドシート)でも、メモアプリ(NotionやObsidianなど)でも、すでに毎日開いているものなら何でもかまいません。

記録が溜まってくると、「これはしばらく触っていない」が目で見えるようになります。演習問題や過去問のように、手を動かして解くものは、こちらの方法が向いています。

2つ目は、機械に測らせる方法です。 暗記アプリの多く(Anki など)は、この計算をやってくれます。たとえば Anki に入っている FSRS という仕組みは、公式マニュアルによれば、「最適化」を実行したときにあなたの復習履歴を分析して、あなたの記憶に合った設定値を作ります。そのうえでカード1枚ごとに記憶の状態を持ち、どれくらい思い出せる状態で出題するかを設定できます(出典: Anki 公式マニュアル)。

言い換えると、1枚ごとの忘れ方を推定してくれる仕組みは、もう実在しています。自分で日付を決める必要はありません。この仕組みを使って自分用の問題集を組む手順は、Ankiデッキ(カードをまとめた束)の作り方にまとめています。

ちなみに、私がいま開発している学習アプリでは、単語帳とノートと演習の記録がばらばらの場所に散らばってしまう問題を、ひとつにまとめてAIに見てもらえる形にしたいと考えています。ただしこれは構想の段階で、いま使える機能ではありません。

なお、ここまでの話は、いま使っている参考書・過去問・予備校の講座や、すでに入れているアプリと併用してかまいません。全部をひとつの道具に寄せる必要はありません。

よくある質問

忘却曲線の「20分後に42%忘れる」という数字は信じていいですか?

数字そのものは、エビングハウスが残した節約率58%を裏返したものなので、出どころのある値です。ただし、そのまま自分の勉強に当てはめる根拠にはなりません。

理由は3つあります。実験に使われたのが意味を持たない文字列だったこと、被験者が本人1人だったこと、そして節約率という測り方自体が、覚えやすい材料では残っている記憶を多めに見せてしまうことです。自分が理解したうえで覚えた内容が、同じ落ち方をするとは限りません。

エビングハウスの実験は、結局なにを測ったのですか?

覚え直すときに手間がどれだけ減るか、を測りました。これを節約率と呼びます。

たとえば10回読んで覚えたものが、翌日は6回で覚え直せたとします。このとき浮いた4回ぶんが「節約」です。「どれくらい思い出せたか」を直接聞いたわけではない、というところが大事な違いです。

一度忘れたら、また最初から覚え直しですか?

その必要はないことが多いです。節約率が残っているということは、覚え直しにかかる手間が1回目より減っているということなので、前の記憶がまるごと消えたわけではありません。

私の場合も、答えられなかったカードで解答を見た瞬間に、しまい込んでいた記憶が戻ってくる感覚を何度も味わいました。思い出せなかったからといって、その回が無駄になるわけではありません。

忘却曲線は嘘だという意見も見ますが、どちらですか?

数字の話と、性質の話を分けると答えが出ます。当てにできないのは数字のほうです。20分で何%、1日で何%という値を、そのまま自分に当てはめることはできません。

一方で、時間が経てば忘れるというところは、その後もくり返し確かめられています。よく言われる「個人差が大きいから曲線は当てにならない」という話も、4人分を並べた追試では形がよく似ていたので、そのままは受け取れません(出典: Murre & Dros 2015)。目盛りは捨てても、この一点は残ります。

忘れる前に復習するタイミングは、どうやって知るのですか?

自分で記録するか、道具に測らせるかの2つです。自分で記録する場合は、解いた日と正誤を残していきます。道具に任せる場合は、暗記アプリ(Anki など)の間隔の計算に委ねます。

私の場合は、ここを自分の感覚で決めようとして失敗しました。必要以上に早く出し直してしまい、復習が積み上がって手が止まりました。具体的な間隔と回数は間違えた問題はいつ解き直す? 回数と順番にまとめています。

同じ日にまとめて復習するのではだめですか?

同じ合計時間をかけるなら、日をまたいで分けたほうが、後まで残りやすいという報告があります(出典: Cepeda ら 2006)。ここで大事なのは「合計時間が同じなら」という条件のほうです。

たくさん間をあければあけるほど良い、という単純な話ではありません。あけすぎれば、次に取り組むときには手がかりが減っています。

まとめ

忘却曲線について、押さえておきたいのは次の3つです。

  • 測られたのは「忘れた割合」ではなく、覚え直しがどれだけ楽になったか。だから記憶は丸ごと消えたわけではありません
  • あの1本は、覚えた項目ごとの忘れ方を平均してならしたものです。人と人の差は言われているほど大きくない一方、同じ人の中でも項目ごとに賞味期限は違います。1枚に複数の知識を詰め込むと、その期限が混ざります
  • 平均は、あなたの目の前の1問について何も言っていません。だから自分の記録を見ます。記録するか、道具に任せるかの2つです

今日ひとつだけ試すなら、次に復習するときの解答を見た瞬間に注目してみてください。「あ、これ知ってる」という感覚が来たら、それが記憶の残っている証拠です。ゼロからやり直しているわけではないと分かるだけで、次に取り組むときの気持ちがだいぶ変わります。

なお、AIをどう使うと記憶に残るのか、という全体像はAIで暗記する方法にまとめています。